第4章 《エルヴィン》堕ちる ※
男に手を引かれ、廊下の一番奥にある部屋の中へと押し込まれる。
…リビングルームだろうか。正面に大きなL字型のソファと、その前に大きなスクリーンが壁にかかっている。
部屋の奥にはキッチンとダイニングテーブルらしきセットがあって、無駄なものがない部屋は清潔感に溢れていた。
「そこに座っていなさい。今お茶を淹れる。」
男はソファを指さすと奥のキッチンに向かった。
その姿をじっと見つめる。
今ならもう一度チャンスがあるかもしれない。
エマは再び意を決して廊下へ飛び出そうと気付かれないように後ろ手でドアノブに手をかけた。
が、しかし一
「君は物わかりのいい方だと思ったんだが。」
「!!」
キッチンの奥から覗く微笑みに、心臓が止まりそうになった。
ダメだ、バレてる…!
エマはドアノブに掛けていた手をだらんと下に垂らして俯いた。
「そうだ。そうやって最初から素直に言うことを聞いてくれれば、怖いことは何もしない。」
男は穏やかに微笑みながらテーブルへとアイスティーを二人分並べ、手招きをした。
エマは男の顔を睨みながらも、今は従うしか術がないと思いおずおずとソファへ腰を下ろした。
「紅茶は飲めるか?」
「………いりません。」
「さすがに喉が乾いてるだろう?昨日の夜からもう半日は過ぎてるんだ、飲みなさい。」
「いりません!」
こんな状況でじゃあいただきますなんて言えるはずない…
何食わぬ顔をしてお茶を進めてくる男の顔を、精一杯の抵抗と言うかのように鋭く睨みつけると、男ははぁっと大きなため息をついてコップごと差し出した。
「こんな真夏に何も飲まずにいたら脱水症状を起こしてしまう。飲みなさい。」
パシャアッ!
派手に水が溢れる音と同時に、男の白いシャツが薄茶色に染まった。
拒否したエマの手が、コップにヒットして盛大にぶちまけられたのだ。
「あっ………」
しまったと思った。
ガタッ!
怒らせて酷いことをされるかもしれないと怯えたエマは咄嗟に身を引き男と距離を取った。