第3章 《エルヴィン》現実逃避 ※
最初こそエルヴィンから誘うことばかりだったのだが、いつしかエマからもエルヴィンを求めるようになっていったのだ。
しかし二人は恋人同士というわけではない。
「エマ、君は本当に美しいな……」
「エルヴィンこそ、いつ見てもとても素敵よ。」
ベッドで裸になって抱き合い、互いの頬を優しく撫で合いながら囁き合う二人は、傍から見れば恋人同士のように見える。
しかし互いにそれを連想させるような言葉は絶対に口にしないのだ。
特に二人でそう決めたわけじゃない。
ただ、二人にとってはこの関係が、一番都合が良く居心地が良いだけなのだと思う。
少なくともエルヴィンはそう思っていた。
自身が訓練兵団時代、調査兵団に入ることを決めた時に、恋愛や結婚などといったものは捨て去った。
この調査兵団に身を置く限り自分がいつ死ぬか分からないし、相手もまた然りなのだ。
そんな状況の中、互いの心を縛るようなことはしたくなかったのである。
加えて今の自分はこの兵団の団長という立場。
一兵士に入れ込んでしまうことで、大事な判断を迫られた時に私情に流されてしまうかもしれない。
そんなことで判断を鈍らせるようなことがあればそれは団長としては致命的とも言えるミスだ。
自分もエマも、個を捨て公に心臓を捧げた兵士。
だからこうして時折、互いの心と体を慰め合うだけの関係で十分なのである。
この話を客観的に聞いたら、ただの意気地無しに思えるかもしれないが、これが最善の形なのだ。
「エマ………」
血色のいいぷっくりとした唇に自身の唇を重ねる。
唇で唇を挟むようにして啄むようなキスを繰り返し、エマの情欲を誘った。
力が抜け、だらしなく開いた口内へと舌を捩じ込むと、すぐにエマの熱い舌が迎え入れてくれた。
エルヴィンは歯列や歯茎、頬の内側や唇の裏まで隅々まで嘗め回していく。
「んっ………はぁ……エルヴィン…」
恍惚を纏った視線をエルヴィンに向け、甘い吐息を漏らすエマ。
「……とてつもなく厭らしい顔だ。」
エマも舌を動かそうとするが、エルヴィンの執拗な舌遣いに身体の力は抜け、エルヴィンの舌を受け入れるだけで精一杯の状態だ。