第3章 《エルヴィン》現実逃避 ※
「それはなかなか無理があります。」
「そうか、残念だな。
……だがこうすれば自ずと敬語も取れてしまうんだろう?
“いつも”のように…」
エルヴィンはエマの髪を耳にかけ片側へ寄せると、艶やかな栗色の髪から覗いた首筋へ唇を這わせ始めた。
「ん………だめ。」
「可愛らしい声を出して。ほかの兵士からしたら、いつもクールな君からこんな声が出るなんて想像もつかないだろうな。」
エルヴィンはニヤリとしながら首筋へ唇をなぞるように下から上へと這わせ、耳へと到達するとその柔らかそうな耳朶をそっと口に含んだ。
ぴちゃぴちゃと聞かせるようにわざと音を立てて耳朶から耳輪までを嘗め回していく。
外耳孔に舌が入ってくると、淫猥な水音がエマの鼓膜を揺らし脳に甘い刺激を送った。
真面目で冷徹な普段の姿とは別人のような、女性らしい声と表情を見せ始めるエマ。
エルヴィンは自分の手によってクールな彼女が妖艶さを纏い始めるこの瞬間がたまらなく好きだった。
毎回毎回この瞬間には身体の奥がゾクリと震え、エマに対しての肉欲が溢れ出し止まらなくなってしまうのだ。
今夜も例に漏れず、既に熱を持ち出した下半身。
これから行われるエマとの色事を想像して、身体中がエマを求めたくて仕方なくなる。
エルヴィンは耳から唇を離し、エマの顔を見つめた。
全てを見透かすような碧い瞳に吸い込まれるように、エマはゆっくりとエルヴィンに唇を寄せた。
触れるだけのキスから、徐々に肉欲を剥き出しにした濃厚なキスへ。
エルヴィンは片手で細い腰を引き寄せ、もう片方の手は後頭部に添えてエマを逃さないようにする。
エマもエルヴィンの首に腕を回し、艶めかしく舌を絡ませた。
「……最初に比べてだいぶ積極的になったな。」
「エルヴィンのおかげかな………んっ…」
最初に彼女と肉体関係を結んだのは、分隊長就任から1ヶ月が過ぎた頃だった。
それからというもの、エマとは時折こうして交わっている。
今日のようにエルヴィンから誘うこともあれば、エマから誘いを受けることもある。