第13章 《リヴァイ》スパークル
エマが何に対しても無気力になったのはやはり親の離婚が原因だった。
高一の夏、母親の不倫がバレて離婚。
しかも自宅に男を連れ込んでいるのをエマが発見したのがきっかけだったらしい。
その後エマは父親に引き取られた。
父親は大学病院の腕の立つ外科医らしく、昔から家にはほとんど帰ってこない。子育てはもちろん母に任せっきりだったし、娘に対する関心も著しく低く、それは父子家庭になってからも変わらなかったという。
つまりエマは最も信頼していた母親から酷い裏切りを受けたうえ、自分に関心がない父親の元で一人寂しい生活を送っていたという訳だ。
「今は一人暮らしも同然。おかげで家事ばっか上手くなっちゃって」
自嘲するエマ。顔を上げれば目の縁が赤くなっていた。
「何がしたかったのか、何のために生きてるのかも分かんなくなった。だからどうでもいいの。別に進学とか就職とか、高校生活とか」
“金ならたくさんあるし”
と捨て台詞を吐いたエマは諦めたように笑う。
リヴァイはその顔を数秒見つめたあと、いつもの調子で淡々と告げた。
「どうでもいいなら学校辞めろ」
「え…?」
「辞めて、自由に生きたらいい。金があるなら多少無茶したって死にはしねぇ。別に俺は止めねぇが」
「……普通教師がそんなこと言う?」
「“普通の教師”なら言わんかもな」
鼻で笑うリヴァイを怪訝な瞳が見つめるが、気付かないふりをした。
リヴァイは本気だった。未成年だが17にもなれば、その気になれば学校に通わなくたって別に生きていける。
自分も今は落ち着いて教師をしているが、ここまで来るのに紆余曲折あった。人がしないような経験もしてきた。だからこそ言える一言だった。
「お前…本当は今の自分が嫌なんだろ。変えたいんだろ?なら辞めて、新しい人生見つけたらどうだ?こんな狭苦しい学校なんかより、社会は広ぇぞ」
「そんなこといきなり言われたって無理…」
「いつまでも親のせいにして、自分は被害者ぶるってのか?」