第13章 《リヴァイ》スパークル
空虚な瞳。その正体はおそらく無関心だ。
彼女にとってはこの小テストも、補習もどうでもいいのだろう。
さらに言えば進学や卒業、高校生活自体さえそうかなのかもしれない。
リヴァイは何が彼女をそうさせているのか無性に知りたくなった。
もちろん心配だからというのもあるが、それ以上に単純に気になったのだ。
富井 エマという人間を知りたい。
そんな好奇心にも似たような気持ちが、不思議とリヴァイの中に渦巻いた。
教室内にある音は風量を増したエアコンの運転音だけ。
てっぺんを過ぎた時計を見て、これからさらに外気温は上がるだろうと思った。
5日連続で白紙の答案用紙を寄越したエマには今日から居残りさせている。
他の生徒が全員帰ったあと、リヴァイはエマと一対一で向き合っているというわけだ。
「お前にとってはどうでもいいかもしれんが、残念ながら俺にとってはどうでもよくない」
「…教え子に留年されちゃ先生の面目丸潰れですもんね」
「ハッ、言うじゃねぇか。…まぁその通りだ。てめぇにはきっちり3年で卒業してもらわなきゃ俺が困る」
「そこ正直にいいますか、普通」
「素直なんでな」
冗談めかしても、ピクリとも動かない頬。
コイツの笑った顔は未だかつて見たことがない。自分も大概仏頂面だとか言われるが、コイツもなかなかいい勝負だ。
しかし段々喋るようにはなってきた。
「とにかくお前が真面目に授業を聞く気になるまで、毎日居残りだ」
「拒否権は?」
「あるわけねぇだろ。あんまり教師を舐めるなよ」
「…嫌い」
「は?」
「そうやってすぐ教師だからとか、そういうの盾にして偉そうにすんの」
ギロリ。
光のない、真っ黒な瞳がリヴァイを睨みつける。
明らかな嫌悪が伝わる。エマの機嫌がさらに悪くなったと察した。
正直言ってここまで厄介な奴だと思っていなかった。だがここで、なら勝手にしろと言うわけにもいかない。
「…教科書を開け。今日やったことを噛み砕いて一から説明してやる」
動かないエマの傍らにある教科書を手に取りページを捲る。
ノートに要点を纏めていき、反応のないエマに対しリヴァイは居残り授業を決行した。