第13章 《リヴァイ》スパークル
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富井 エマについては一段と注意を払っていたが、予想以上に厄介な生徒だった。
「今日で5度目だ。ちゃんと話聞いてりゃ解けるはずなんだが…てめぇは笊耳(ざるみみ)か?」
補習が始まって一週間。
リヴァイはエマの机に両手をつき、イマイチどこを見ているか分からない瞳を覗き込む。
彼女の机の上には白紙の答案用紙。かろうじで名前は書いてあるが、あとは見事に一文字も書かれていない。
リヴァイは毎日、補習の最後に小テストを実施している。
その日教えたことが生徒の身になっているか確認するためと、復習も兼ねてだ。
そして、エマの机の上にあるのがそのテストの答案用紙。
補習が始まってから今日までずっとこんな調子なのだ。
引き合いに出すのはあまり好ましくないが、他の補習生は一応真面目に解答している。基礎的な問題しか出てないのでそう難しくもないはず。
だから、この白紙の答案は故意的なもので間違いないとリヴァイは踏んでいるのだ。
「こっちも出たくもねぇ夏休みにこうしてお前らを躾し直してやってんだ。真面目にやってもらわなきゃ困る」
「……」
「はぁ……お前の口は飾りか?」
「……やりたくなきゃやらなきゃいいのに」
「あ?」
やっと出た一言を聞いて、ついガラの悪い声を出してしまった。
常日頃生徒の前ではあまり感情的にならないように注意しているが、この一週間自分もだいぶ我慢が溜まっていたようだとここで気がついた。
しかしエマは凄まれても怯まず、堂々とリヴァイの目を見据えている。
「面倒ならほっといてください」
「残念だが生徒を留年させるような趣味はねぇ」
リヴァイも負けじと目を逸らさず。
すると今度は簡単に目線を外し、聞こえるか聞こえないかくらいのため息を吐いたエマ。そして呟くように一言。
「どうだっていい」
主語は語られなかったが、リヴァイはその一言でなんとなくこの女のことが分かった気がした。