第12章 《エルヴィン・リヴァイ》 “アイシテル” ※
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エルヴィンは床の水溜まりを見たあと視線を上げた。
カタカタ揺れる肩、戦慄く唇、怯えた目。涙で濡れた頬はいつまで経っても乾かない。
あぁ…なんて弱く、脆く、そして美しい。
〝愛してる〟
「リヴァイ、お前こそそんな格好で歩けば怪しまれるだろう。もっと周りに溶け込まないと」
この辺りで真っ黒な燕尾服に白い手袋を嵌めて外を歩く人間などいない。
震える少女の涙を見つめたまま注意すれば、
「てめぇと違って俺はヘマしねぇ」
呆れたような声が返ってくる。エルヴィンは笑い飛ばした。
「はは、それもそうだな。…可愛いだろう?」
「オイオイ、俺はてめぇの自慢話を聞くために呼び出されたってのか?」
「あながち間違いではない」
エルヴィンが怯える目を覗き込むと、エマは縮み上がった。
「気持ち悪いだろう。こっちへ来なさい」
優しく手をとり、優しく微笑む。
出会った当初から変わりなくしていることだが反応は変わってしまった。
「いやぁっ!」
「大丈夫だ。これ以上血は抜かない…今はな」
ほら、と手を引けば身体はようやく壁から剥がれる。
エマの前にしゃがみ、裾をたくし上げ下着に手をかけると、それはもうその役割を果たさないほどぐっしょり濡れていた。
下着を下げ股の間に顔を持っていこうとすれば、足は固く閉じられてしまう。
「今夜はお客が来てるんだ。綺麗にして、身だしなみくらいは整えないと」
「ゃ…」
拒絶。弱々しく首を振り、蚊の鳴くような声で。
耐えきれず笑みが零れた。本当に可愛い。無理やり割ってじっとりと湿った中心を舐めあげた。
「やっ!やめっ!」
「こら。じっとしていなさい」
排泄直後の匂いと色香の余韻が混ざり合い、エルヴィンの脳をくらりと揺らす。
吸い尽くしてしまいたい。
そんな衝動を抑えながら、丁寧に舌を這わせた。
「ハッ、随分と入れ込んでやがる」
「そうだな…手離したくないよ。永遠に」
だからこうして、死なない程度に少しずつ。
恋をしている女はそれなりに美味いが、彼女は別格。
育てただけじゃここまでにはならない。おそらく元々の性質だろう。
視線が刺さった。顔を上げればエルヴィンを見下ろす、感情の読めないグレーの瞳。
「試してみるか?」
エルヴィンが訊けば、男の代名詞ともいえる眉間の皺がぐっと深まった。