第11章 《エルヴィン》黒の彼氏 ※
「ごちそうさま。とても美味しかったよ」
エルヴィンさんが苦手だと言うので、作ったのはにんにくの入っていないカルボナーラだ。
昨日、にんにく抜きでも作れるレシピを調べて練習した甲斐もあって味は上々。エルヴィンさんのにっこり顔も頂けて大満足だ。
「お口に合って良かったです。また何か作らせてくださいね」
「ありがとう。頼む」
エルヴィンさんの笑顔に安心して、またきゅんとする。
普通に家でご飯を食べているだけなのにこんなに幸せを感じるなんて、私の頭は相当お花畑になってしまっていると思う。
そのあとは食後のお酒を飲みながら、私たちはソファで寛いだ。
右半身はぴったりとエルヴィンさんにくっついて、軽く頭を肩に乗せてみる。
「今日はやけにくっつき虫だな。どうした?」
「んー?」
目線だけ上を見ると、なだらかに弧を描く口元と優しい瞳。
見つめ合えばその瞳に吸い込まれるように、片時も離せなくなる。
もう我慢の限界だった。
「……キス、して?」
チュ
「違う」
「ん?」
「…もっと、激しいのがいい」
躊躇いなんて文字は私の頭にはなかった。気付いてほしくて、抱いてほしくて、ただ感情のままに言葉を紡ぐ。
エルヴィンさんは一瞬目を見開いたけれど、すぐにいつもの優しい目をして私の頬に掌を添える。そして慈しむように何度も撫でたあと、躊躇いがちに問うた。
「……いいのか?」
「いい…エルヴィンさんに、愛してほしいの」
経験はある。私だって二十歳もすぎてもう大人だ。だから子供扱いなんてしないで、ちゃんとエルヴィンさんの女にしてほしい。
「…分かったよ」
ゆっくり押し倒された。皮張りのソファは肌に当たるとひんやりして、ツルツルした表面に髪が放射状に広がる。
「エルヴィンさん、好き」
「私もだ…狂おしいほどに君が…」
唇にキスが降った。啄むような甘い甘いキスが。
自ら隙間を作ってエルヴィンさんの舌を待つ。けれどそれを迎え入れることなく、唇は離された。
期待外れの行動に見上げると目が合う。
しかしその時、私は妙な違和感を感じたのだった。