第10章 《リヴァイ》 一線 ※
唇に重なる、少し冷えた柔らかさ。
細い毛先がこめかみに触れ、開き切った目には伏せた長いまつ毛が映る。
押し当たったのはきっと2、3秒だけれど、エマには時間が止まったかのように感じた。
ゆっくり唇が離れていき、苦しく切ない瞳と交わる。
「……もう後戻りできねぇぞ」
言葉がエマに重くのしかかる。
けれど、それ以上の喜びで満たされていく。
「いい。一緒にいられるなら、どうなっても、いい…」
「ハッ、たいした度胸だな」
「お兄ちゃんもでしょ…」
「あぁ…悪くねぇ」
見つめ合って、視線が絡み合って、どちらからともなくまたキスをした。
今度は深い、劣情を刺激し合うような口付け。
後頭部と背中を支えられながら身体を倒される。
繋がれた手は顔の横に置かれ、固く握られた。
「ん……はぁっ、」
深く深く、溺れてしまいそうなキスにエマが熱い吐息を漏らすと、リヴァイはさらに貪るように舌を絡ませた。
それは届くはずのない思い…本当なら伝えてはいけない思いだった。
けれど惹かれあっていたと気づいた今、もう誰にも二人を止めることなどできない。
窒息してしまいそうなくらい長く激しい口づけを交わし漸く唇が離れれば、太い銀の糸が互いを繋ぎ、まだ繋がっていたいと言っているようだった。
「ハッ…なんて顔してやがる。」
「…え?」
キスだけで蕩けそうな目をするエマが可愛くてたまらない。
それにこんな顔は初めて見る。
妹ではなく、一人の“女”としてのエマの顔。
「どんな顔…」
「そうだな…俺の欲を掻き立てるタチの悪い顔、ってとこだ…」
「っ…!お兄ちゃんっ!!」
そこまで言ってやっと理解したエマは、瞬く間に頬を紅色に染めながら大きな声を出した。
「エマ」
宥めるように熱を持つ頬を撫でると、潤んだ瞳がこっちを向く。
「兄貴呼ばわりはもうやめろ。」
「えっ…」
「分かるよな?」
エマは頬を更に上気させ口を噤んだ。どうやら言いたいことは伝わったようだ。