第10章 《リヴァイ》 一線 ※
おそるおそる顔を上げると、いつも通り眉間には皺が深く刻まれていた。
しかしその表情は見たことないほど切ないもので、エマの心臓は一際大きく脈打った。
「今まで必死になって蓋をしてきたってのに…」
拍動は物凄い勢いで強く早くなっていく。
こちらを見つめる切れ長の瞳は黙っている。
その瞳に捕らえられたかのようにエマは目を離すことができなくなる。
「どう、いう……」
やっとのことで絞り出した声はそう問うので精一杯。
「!!」
伸びた手がエマの頬に重なった。
「エマ。俺たちは兄妹だ。だから俺は今日までお前をたった一人の“妹”として大切にしてきたつもりだ。」
「………」
触れた手が少しずつ動き、髪を掬って耳にかける。
「…だが俺はそのために努力してきた。何度触れたいと思ったかなんて数え切れねぇ…だが兄貴が妹に手を出すなんてありえねぇと、エマを傷つけるだけだと言い聞かせてきた。ずっとだ。」
「!!」
リヴァイの話はエマに稲妻のような衝撃をもたらした。
…信じられない
するりと頬から滑り落ちていく右手。
リヴァイはどこか苦しそうで、自分も同じような表情をしている気がするとエマは思った。
「お兄ちゃん…」
再び黙った兄は何を考えているのだろう。
私は、何を考えている…?
もう一度触れて欲しい。
触れたい。
お兄ちゃんも、同じ気持ち…?
互いの気持ちを知ってしまった今、エマの脳を支配しているのは剥き出しになった欲望だけだ。自分の立場など忘れた振りをして。
ずっと交わっていた視線が解かれる。
シーツへ視線を落としたリヴァイは静かに口を開いた。
「……後悔はしないか?」
疑問形だったけれど、それは自分自身にも問うているよう。
兄でいようとする自分と、心に正直になろうとする自分との間で揺れ動くリヴァイの心情が、エマには手に取るように伝わっていた。
「…しないよ」
顔を上げたリヴァイを見据え、エマはもう一度はっきりと言う。
「後悔しない。このままの方が辛い…だから…っ!!」
しかしその続きを紡ぐことはできなかった。