第10章 《リヴァイ》 一線 ※
切れ長の瞳も、筋の通った鼻も綺麗な肌もサラサラな黒髪も
頭を撫でてくれる少し冷たい手も
口は悪いけど誠実なところも
ぶっきらぼうで怒ると怖いけど、本当はすごく優しいところも
全部全部、大好きなの。
「私…お兄ちゃんが好き、大好き」
一度吐露した本音は堰を切ったように溢れ出す。
「…あぁ知ってる。いつも言ってるだろ…」
違う、いつもみたいにふざけてじゃない。
「そうじゃない…」
しわくちゃになったワイシャツの裾を見た。
馬鹿なこと言ってるのは分かってる。
そしてたぶんお兄ちゃんも気付いてて、でも優しいからああやって返してくれてるんだ。
でもそれでも…伝えないと、大きく膨れあがったこの感情に自分が押し潰されてしまいそうで。
届いてほしいとまでは思わない。けれど伝えたくてたまらない。
自分勝手な妹を許してくれるだろうか…
「お兄ちゃんが好きなの…本気で、本当に…ずっとずっと好きでどうにかなっちゃいそうなの…どうしたらいい…?」
目が合ったのはいつもの無表情だ。
何を考えているのかとても分かりにくい仏頂面。
エマは目を伏せ声を出さずに笑った。
何言ってるんだろう私…そうだよ、こんなこと言ったってお兄ちゃんを困らせることにしかならな…!!
不意に香ったのはよく知る匂い。
微かにではない。強くエマの鼻腔を刺激して、それは何故かと頭が追いつく前にきつく抱きしめられた。
「……お…にい…ちゃ」
「本気なのか」
背中から聞こえる低い声はいつもみたいに抑揚がなくて、問いかけの真意なんて分からない。
それでも私は続けた。
「本気…本気で好き」
すると小さなため息が聞こえて、ゆっくり体が離されていく。
その瞬間私は愕然とした。そして自分の愚かさを酷く悔いた。
「馬鹿が…」
お兄ちゃんの言うとおり馬鹿だ。馬鹿すぎる。
私達は仮にも兄妹だっていうのに、何を…
「てめぇは本当にどうしようもない馬鹿野郎だ。」
下を向いてギュッと目を瞑る。溜った涙が2、3粒布団に落ちた。
謝りたかったけれど今声を出したら泣いているのがバレるから、ただ唇を引き結ぶことしかできない。
「せっかく堪えてきたってのに…」
しかし聞こえた呟きに、私は下を向いたまま耳を疑った。