第10章 《リヴァイ》 一線 ※
「行かないで……」
エマは裾を掴みながらもう一度言う。
こんな台詞を言うのは初めてじゃない。いつも帰って欲しくない時は言ってる。
けれどこんな風に本気の眼差しを向け、縋るように口にしたのは初めてだった。
いつも冷静沈着な兄が戸惑い隠せない様子でいる。
きっと気付いてしまったのだろう。私の小さな異変に。
「…そこまで言うなら帰らねぇが、明日は休めないから朝起こしちまうかもしれねぇぞ?」
「それでもいい」
言い切るとリヴァイは一呼吸置いて“分かった”とだけ言い、エマの髪を撫でた。
髪なんてこれまで何度も触れられてきたのに、今のエマにはまるで初めて好きな人にされた時のようで、たちまち心臓は早鐘を打つ。
それと同時に息苦しくなりそうなほど想いは込み上げて、止める方法など分からなかった。
熱で頭がおかしくなってしまったんだろうか?
………いや、そんなわけがない。
だってそうだ、私はずっと…ずっとずっと……
「好きなの」
髪を撫でる手が、止まった。