第10章 《リヴァイ》 一線 ※
「あー本当に美味しかった!ごちそうさまでした!」
満面の笑みで手を合わせるのを見てリヴァイは自然と頬が緩む。
やっぱりエマは笑顔がよく似合うと思った。
「そういえばお兄ちゃんはご飯食べたの?」
「あぁ、適当に食った。」
「お風呂は?」
「帰ってから入る。」
飯はエマが寝ているうちに多めに作っておいた雑炊を食べたし、部屋の片付けや洗濯物も畳んでおいた。
あとはエマが起きてしんどそうなら朝まで付き添うつもりでいたが、熱も下がったしもう自分の役目は終わりだろう。
そう思って食器を手に立とうとしたが、何かに引っ張られて立てない。
なんだと思い振り返ると、俯いたエマが服の裾を掴んでいた。
「また体調悪いのか…?」
すぐにそう思って聞くがエマは俯いたまま首を横に振る。
「ならどうした?」
ゆっくり頭が上がり 目に飛び込んできたのは寂しそうな顔。
「…帰っちゃうの?」
きゅっと裾を掴む手に力が入る。
リヴァイは盆を持ったまま固まった。
物寂しそうな上目遣いを見れば、何故だか胸が締め付けられる。
「……帰ってほしくねぇのか?」
下を向きコクリと頷く妹。
急に見せる弱気な態度にリヴァイは動揺しながらも、表面上は努めて冷静に、とりあえず食器をサイドテーブルに戻すと隣に座り直した。
「熱も下がって調子も悪くないなら一体どうしたんだ。」
「…………」
下を向いたまま黙るエマ。
「不安なことでもあんのか?」
「……………しい」
沈黙の最後に何か聞こえたのでもう一度訊き返すと、切なく揺れる瞳と目が合った。
「………一緒に…いてほしい…」
「!」
か細い声のエマからはいつもの天真爛漫さは少しも感じられなくて、リヴァイはひどく戸惑った。
いや、正確には戸惑うというより…
「今夜は…お兄ちゃんと離れたくない…」
寂しそうに呟く妹を前に、リヴァイの奥深くで長い間 眠っていた感情が目を覚ましてしまったのだ。