第10章 《リヴァイ》 一線 ※
「起きたか?」
カップ片手にソファに座るリヴァイと目が合った。
薄暗がりの中、テレビも付けず静かに飲んでいるのはたぶん好きな紅茶だと思う。
「ん…ごめん、寝過ぎた気がする…今何時?」
「11時」
「…え?!ちょっ、なんで起こしてくれなかったの?!」
驚いて飛び起きたエマを、リヴァイは涼しい顔でカップを啜りながらチラりと見た。
「風邪には寝るのが一番の良薬だからな。寝たいだけ寝るのがいい。」
時計を見ると確かに11時を回っている。
確か寝たのは5時半時くらいだったから…6時間近くも寝てる!
そういえばご飯作ってくれるって言ってたのに呑気にこんな時間まで寝てしまった…
「お兄ちゃんごめん、ご飯用意してくれてたんだよね?なのに私ったら…」
「馬鹿。そんなところに気を遣うな。飯なら温めたらすぐ出せるが…食うか?」
「いる!食べる!食べます!」
「ハッ、いやに元気だな。もう下がったか?」
ベッドへ腰掛けたリヴァイの手が伸びて額に触れる。
急に縮まった距離と思いがけない行動に、何故かエマの胸はドクンと高鳴ってしまった。
手…大きくて、少し冷たい…
「………熱もうないんじゃねぇか?」
掌で測る2、3秒がなんだかとても長く感じて、その間エマの意識は少し冷えた右手と、自身の鼓動だけに向いていた。
「…!ちょっと測ってみるね!」
やだ、何ぼーっとしちゃってんの!
こんなことされたの初めてだからって動揺しすぎ…
体温計を挟んで顔を上げると、やっぱり少し心配そうに覗き込む顔。
一瞬目があったけどなんとなくすぐ逸らしてしまって、そのあとは表示される数字と一生懸命にらめっこした。
ーピピピピピ
「…36度6分だ、下がってる!」
「良かったな。」
「うん…!ほんと、お兄ちゃんの言う通り寝るのが一番効くんだね!」
「分かったならこれからこういう時くらいはゲーム我慢しろよ。」
「アハハ…肝に銘じておきます…」
「まぁけど油断はするな。とりあえず飯の準備してくる。」
「うん、ありがとう…」
大きな手がわしゃっとエマの髪を乱してから離れていった。
エマはその後ろ姿を見つめながら、忙しなく脈打つ鼓動を落ち着かせようとひっそり深呼吸していた。