第10章 《リヴァイ》 一線 ※
「…お兄ちゃん、ごめん」
ベッドへ来た足元を見て謝った。
そうだ…お兄ちゃんは私を心配してわざわざ仕事切り上げて駆けつけてくれたんだ…
なのに私ってば何も考えず馬鹿みたいにゲームに熱中しちゃって…そりゃ怒るのも当然だよね…
考えれば考えるほど申し訳なくなって、エマは誠意を持って謝罪しようとゆっくり頭を上げた。
「本当にごめんなさ…!!」
睨まれていると思った。
この上ない程冷たい視線で突き刺すように。
「…あんまり心配かけるな」
ふわりと頭の上に乗る重み。
頂点をポンポンと撫でる手はその瞳と同じく温かくて優しかった。
「………ごめんなさい」
エマは何故か泣きそうになってしまった。
自分がいけないというのにリヴァイの心配そうな顔を見て、張り詰めていた糸がたわんだように大きな安心感に包まれたのだ。
それと同時に深く反省もした。
「分かったならもういい…とにかく大人しく寝てろ。」
「…うん」
リヴァイはもう一度エマを寝かせるとカリカリになった冷えピタを張り替えてやり、また台所へ戻った。
エマは布団の中で反省しながらも、優しいリヴァイの心遣いに胸がほっこり温まるのを感じていた。
なんだかんだやっぱり優しいお兄ちゃんが大好き……
だからもう本当に、心配かけるような真似はよそう…
エマはゆっくり瞼を下ろした。
一度下ろすと再び開けるのはもう無理だと思うほど瞼は重たくて、身体が“眠れ”と言っているんだと思った。
トントントンとリズミカルな包丁の音が心地良くエマを夢の世界へと誘(いざな)う。
目を閉じてものの5分もしないうちにエマは意識を手放した。
カチャ
「―……」
何かの音にエマの意識はゆっくり浮上した。
まるで海の底に沈んでいたように、深い眠りから覚めたような気分だ。
どのくらい寝たんだろう…
でも頭も体もかなりすっきりしている気がする…
意識の狭間でぼんやり考えながら目を開ける。
間接照明の柔らかな光が起きたばかりの目には優しくて、エマはすぐに視力を取り戻した。