第9章 《リヴァイ》 初めて涙を流した日
それからさらに1週間が経った。
俺は薬を買うため仕事に奔走しつつ、時間があれば昼夜問わずエマの元へ行った。
ここ数日はこの古びたドアを開ける瞬間は祈るような気持ちでいる。
ドアの向こうにいつも通りの笑顔があって欲しいと。
「おはよ、リヴァイ」
ゆっくり開けると柔らかく笑うエマが出迎えてくれたが、俺は慌てた。
「おいっ、寝てなきゃダメだろうが!」
「あーあやっぱり怒られちゃったかぁ。今日はちょっと気分が良かったから久々に描きたくて。」
エマはベッドではなくイーゼルの前にいたのだ。
確かにエマがここへ座って色鉛筆を握っている光景は久しぶりに見るが…
「本当に大丈夫なのか?」
「うんへーき!ずっとベッドの上だと気が滅入りそうでさ…あ、見て!今日はね、リヴァイの為に描いたんだ!」
得意げに言うエマの横に立ちキャンバスを覗き込むと、そこには暖かみのあるオレンジの小さな花が描かれていた。
「俺のためにか?」
「うん!カランコエって言うの!はい、プレゼント!」
絵を差し出すエマは少しはにかんでいるような気がした。
「カランコエ…か。よく知らねぇが悪くねぇな。」
「その花にはね、“幸福を告げる”っていう意味があるんだって。リヴァイにこれからたくさんの幸せが来るようにって願って描いたの。」
「俺に…幸せが?」
「うん。こんなどうしようもない世の中だけど、いつかリヴァイには本当の幸せを手に入れて欲しいなって。」
「…お前が思う俺の本当の幸せって何なんだよ」
「え?それはもちろんこんな冷たい地下から抜け出して、あったかい太陽の下で生きること!……私の分まで、ね!」
いつも通り笑うエマがこの上なく切なく映る。
「何クソ馬鹿なこと言ってやがる…」
「え?」
地上へ行って私の分まで幸せになれ、だと?
「てめぇは…何も分かっちゃいねぇ…」
「え?ちょっと、なんで怒るの?リヴァイ?」
隣にお前がいなきゃ無意味だってのに、お前は気付きもしねぇのか?