第9章 《リヴァイ》 初めて涙を流した日
質の悪いパンは硬くパサパサで、病状が悪化したエマが受け付けなくなるのも少し考えればすぐ納得できた。
そんなことにも気付かず馬鹿の一つ覚えみたいに毎日硬いパンを差し出して……馬鹿か俺は。
自身の不甲斐なさに握りしめた拳が震える。徐に持ってきたパンを取り出し頬張った。
「……リヴァイ?……んっ、」
「…悪いがこんな食わせ方しか思いつかねぇ。少しでも食え」
俺は小さくちぎったパンを十分に咀嚼しエマの口腔へ流し込んだ。
白い喉元が小さく上下したのを確認し、少し様子を見てまた。
「ん、…………リヴァイごめん、食べられる時に食べるから。」
「ダメだ。嫌かもしれねぇが言うことを聞け。」
自分は自他共に認める潔癖で、人に口移しで物を食べさすなど普段なら考えられない。
だがそんな考えなど今の俺には1ミリも無く、ただエマに食べて欲しい一心だった。
「…嫌、じゃないよ。でも申し訳ない…毎日ご飯届けて貰ってるだけで負担かけてるのに、こんなことまでさせちゃ」
「てめぇは馬鹿か!人の心配してる暇あったらてめぇの身体の心配をしろ!」
「……ご、ごめんね。ありがと、リヴァイ。」
「…怒鳴って悪かった。水はいるか?」
「うん…あ、お水は自分で飲めるよ?」
「持たなくていい。」
エマの主張を無視してコップを口元へ運ぶ。
“リヴァイには敵わないなぁ”と苦笑いでちびちび飲むのを黙って見守った。
自分の身体のことは一番自分が分かってるはずなのに。
それでもエマは俺のことを気にするばかりだ。
こいつはずっとそうだった。
弱い部分を見せたのは出会ったあの日だけ。それ以来どんな時でもいつも明るく笑っている。
そんなところが好きだった。
エマの笑顔を見ればこのクソの掃き溜めみたいな土地での生活も少しは悪くないと思えた。
でも今はこいつの笑顔を見る度どうしようもないほど苦しくなる。
今の自分にできることと言えば早く薬を入手し届けてやることと、こうしてそばに居ることくらいだ。
クソ……クソ…!!!
俺にもっと力があれば……
あまりの自分の無力さに、ただ唇を噛み締めることしか出来なかった。