第9章 《リヴァイ》 初めて涙を流した日
エマに薬を渡してから2週間が経った。
早くまた追加の薬を飲ませてやりたかったが、半月やそこらじゃ一日分すらまともに買えない。
思うように行かず毎日食事を届けることしかできない自分にイラついていたが、エマはそんな俺を責めることなくいつも通り普通に接してくれていた。
ちなみにエマの家はアジトから少し離れた場所の地下にある。
アジトは敵に狙われた際エマにも危害が及ぶ危険性があったし、買い主の男に見つからないため目立たない場所にと選んだのだ。
しかしエマの病気が発覚してからはさすがに心配で一緒に住むかと何度も提案したのだが、それに関しては首を横に振るばかりだった。
元々自分が俺たちの活動の足でまといになることを極度に気にしていたエマだから、そこは頑なだったのだ。
「今日は珍しく質のいいパンが手に入っ一」
ドアを開けながら俺は凍りついた。
床に伏せるように倒れるエマに即座に駆け寄り抱き起こす。
「エマ!おいエマ!!」
「………おはよ…待ちくたびれたよ…」
薄ら目を開けたエマはいつもの調子で笑ったが、声も表情もとても弱々しかった。
「お前…立てねぇのか…?」
「頑張ったんだけどね……はは、みっともないとこ見られちゃったな…」
「何がみっともないだ、無茶しやがって…どこか行きたいところがあったのか?」
「ん、トイレ…」
「待ってろ」
「…ごめんね?」
「謝るな」
申し訳なさそうな顔をするエマにまた胸が痛む。
おぶってトイレに連れていったが、その軽さに愕然とした。
「ありがと、リヴァイ」
ベットに戻して乱れた髪を直してやると、安心したように笑った。
クソ…昨日までこんなに酷くなかったのに何故だ…!
病は無常なほどに残酷だ。
いくら願っても身体を確実に蝕んでいく。
毎日会いに来てたのにもっとしてやれることはなかったのか?
己の無力さに腹が立って仕方がない。
ふとサイドテーブルの食べかけのパンに目が止まり、やるせない思いを抱える俺に更に追い討ちをかける。
「…食えねぇのか?」
「ごめんね…どうしても喉通らなくて。お腹は空いてるはずなんだけど…」