第9章 《リヴァイ》 初めて涙を流した日
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男の家らしき一室の隅で私は立ち尽くしていた。
リヴァイと名乗ったこの男は、私を買うことが目的ではないらしかった。
それなのに何故ついてこいと言ってくれたのか、そもそも何故助けてくれたのかも分からないままだが、あの大男のような奴ではないことは分かった。
しかしすぐに心を開くことはやはりできず、自分から助けを乞うようなことを言った手前気まずさもある。
だから私はただただ相手の出方をじっと待った。
しかし沈黙は絶望と共に破られた。
「服を脱げ」
私を見下ろす冷淡な瞳が言う。
少しこの男を信じてみようかと思った矢先の発言に、早くも私は絶望のふちに立たされた。
買うつもりじゃないって言った。
「……あんたも同じだったの…」
「何がだ」
「とぼけないで!結局あいつらと同じ!!私はあんたの快楽のための道具なんでしょ?!」
「何言ってる、そんなんじゃねぇ」
答える声は落ち着きを払っているが私は男の言葉を全く素直に受け入れられない。
「ピーピー喚いてねぇで言うことを聞け」
「いやっ!!」
ーパシッ
伸びてきた手を思いっきり払い除けてしまった。
直後に脳を支配したのは忘れたくても忘れられない忌々しい記憶たち。
「あ……あ………ごめ、なさ……」
カタカタとひとりでに身体が震え、勝手に漏れ出たのは謝罪の言葉。
「ごめっ、ごめんなさい…ごめんなさい!」
なりふり構わず、見下ろすリヴァイの足にしがみついた。
また酷いことされる…!痛いの?苦しいの?
それともまた捨てられる?!
やだ……やだ!!
「ゆるして、くださ………っ?!」
呟くような懇願が空間ではなく質量に吸い込まれる。
滲む視界は真っ暗で、頬を掠める布の感触と上半身を何かに包み込まれる感覚。
それがリヴァイに抱きしめられているせいだと理解するのに、私は長い時間を要した。
「てめぇは馬鹿か…その両耳はただの飾りか?」
「…え?」
降った声はさっきまでの抑揚のないものとは違って心安らぐような優しい音で、私を温かく包み込んでいく。
「俺はあんな下劣な真似はしないと言っただろ。そもそもあんなことには興味すらない。」
「っ…なら何で、」