第9章 《リヴァイ》 初めて涙を流した日
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「いやぁっ!やめっ!はなして!」
「奴隷の癖に何生意気な口きいてやがんだ、ぁあ?余程痛めつけられてぇみたいだな!」
「もう嫌!こんなっ、こんなの…!」
一ドスッ
「ガハッ!ゴホッゴホッ…」
「うるせぇこの野郎…てめぇは俺が買ったんだ。口ごたえする権利も何もねぇんだよ!俺の言うことだけ聞いてりゃ死にゃしねぇって言っただろ?ご主人様のありがてぇお言葉をもう忘れたのか?この汚ぇ雌豚が!」
罵声が耳鳴りの奥で聞こえる。
半分放心した私にはその内容を理解するだけの力は残っていない。
けれど、大体いつもと同じような言葉を浴びせられているのだろうと思った。
腹を抱えて蹲る私を見下ろす無駄にがたいのいい男。
ひと月前、私はこの男に買われた。
この地下街では常に弱肉強食、力のある者が生き残り、弱いものは殺されるか食うに困っていずれ死ぬ。
そんな中、女であり力のない私に残された道は自分の身を売ることのみ。
物心着いた時から母にくどくど言われて育ってきたから、初潮が来たと同時に身を売られた時も特に母を恨むことはなかった。
これが当たり前の道なのだと、私は疑う余地もなく簡単に身体を捧げたのだ。
そうしてこの数年間色々な男に買われては捨てられを繰り返し、私は何とか今日まで食いつないできた。
色んな男がいた。だが共通しているのは皆私のことを“物”としか見ていないこと。
お前は犬だと裸で生活を強いられたり、飲尿させるのが趣味の変態もいたし、私が怖がったり泣いたりするのに性的興奮を覚えるどうしようもない奴もいる。
そして今私を見下ろしているこの男こそ、まさに女を痛めつけて性的興奮を感じるという悪趣味極まりないクソ男だった。
「こい!もう一度一から躾し直してやる!」
「っや!はなして!はなして!」
「おいおい…ほんとにどうしようもねぇ野郎だな…そんなにまたコレが欲しいのか?」
「ひっ…!」
ニヤリとつり上がった口元。
顔の前に出されたのは黒々と光る硬い鞭だ。
私は震え上がった。
足が勝手にガクガク震えるので立ち上がることもできず、弱々しく抵抗の声を出すので精一杯。
「また楽しもうじゃねぇか…お互い」
バッと振りかざされた腕に私は目を瞑った。