第26章 外伝
自分の仕事が認められて役に立てるのは嬉しい。
でも一番は、副隊長と話せるようになったこと。
距離が縮んだのをきっかけにどんどん近付いた。差し入れを持っていったり、休憩時間にお茶を淹れたり。そのうち隊内の食事会や飲み会に行って、当然のように隣に座ったりした。
副隊長も優しく接してくれたから、自分が可愛いとおごっていたんだ。
もしかしたら、と期待もしてしまって。
「もうすぐ夏祭りですね。副隊長は浴衣ですか?」
「ああ…悪いが、今回はパスな」
夏祭りの時期が迫ったある日、当然自分達と行くものと思っていたあたしが副隊長にそう尋ねると、あっさり断られた。
「なんでですか?」
「俺、誘った人がいるから」
副隊長のあまりのストレートな返答に頭の奥でピシ、と音がした。
何の音だろう。
理性が飛んだのか。
プライドが砕けたのか。
「誘った…人……」
その人物に心当たりがあった。隊内で噂を確かめて確信する。
以前から邪魔だと思っていたが、ここまでしゃしゃり出られるとは。
何か手を打たないと。もしくは少し脅してでも牽制しておく必要がある。あたしはそう決意した。
◇ trigger ◇
ある時九番隊の見知らぬ女性隊士が訪ねて来た。
「すみません、これ…夢野四席に渡してもらえますか」
見ると手紙のような封書だ。夢野さんは別室にいたので呼ぼうとしたら、逃げるように去っていってしまった。
直感的に怪しいと思った俺は封書の中身を盗み見た。
檜佐木副隊長に関わらないでください。
副隊長は日々重要な仕事をこなし忙しく、あなたの存在は負担になっています。
あなたのせいで、私達の関係を壊されるのは不愉快です。
私達の邪魔をしないで。
…何だこれ?ただの陳腐な嫉妬じゃないか。
そこへ夢野さんが戻って来た。俺はどきりとして急ぎ手紙をしまい、平静を装う。
「お疲れ様です、隊長は?」
「今は寝てます。スープを作ったので食後の薬も飲めたし、よかった」
夢野さんは何も気付かず普段通りに話し続ける。
「残り物で申し訳ないけど、良かったら食べませんか?温め直しますね」