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dearest moment

第26章 外伝


 そこで俺は気が付いた。俺の手を握る彼女の手が震えていた。藁をも掴む思いですがってきているのだと解った。
 そうして彼女は顔を上げ誓いを立てるように言い放った。

「あたしだって…オンナを磨いて、それで振り向かせてやるんだから!」

 嫌がらせの腕前を上げたいなんて言ったら、また水をかけるところだったけど。
 そう思って俺がフッと笑うと、彼女はこっちを睨みつけてきた。その頬は赤く染まっている。

「文句あるの」
「文句ないよ。それでいいと思う」

 素直に人の言うことを聞けば、意外に可愛いんだなと思った。指摘を受けて実行しようとする意欲は、彼女自身の自覚と、覚悟がないと湧いて来ない。
 きっと一人の時間に必死に考え、頑張ったんだな。

「…仕方ないな、一緒に探してやるよ。すぐに見つかるさ」

 彼女の顔がだんだん明るく輝いていくのが見えて、少し嬉しくなったんだ。
 そして俺も、夢野さんが後悔するくらい男を磨いてやるんだ。



 それから俺は、もう夢野さんを追いかけることはしなくなっていた。
 誰のためでもない、俺達自身のために。
 一生懸命にもがきながら進んでいくんだ。









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