第24章 夏祭り
萌は戻ってきた修兵の浴衣の袖を掴んでしまっていた。どこにも行かないでと駄々をこねているみたいだ。
「あっ…」
はっとしてすぐ手を離す。隣で修兵がこちらを見ているのが分かった。
「修兵~、いた!探したわよ~」
「萌、たこ焼きあるぞー。食べないか?」
「おいおい…ったく、野暮だねえ」
そこへ、萌達を見つけて人波の向こうから呼ぶ声がした。乱菊と京楽、それに浮竹までいる。
聞こえているはずだが修兵は振り向かず、先程離した萌の手を再び握り返した。
「行こう」
前を向いたままやや足早に通りを進む。
「ちょっと修兵~、かき氷奢ってくれる約束じゃない~」
「萌まで、どこ行くんだ」
声が追いかけてくると次第に駆け足になって、その場から逃れるようにどんどん進んだ。目的地に着く頃には少し息が弾んでいた。
「大丈夫か?」
人を避けながら急いだため若干足がもつれそうになったが、このくらい何てことない。こくんと頷く。
「ごめんな、その格好で走らせちまって」
「平気です」
そのまま街の裏手にある小高い丘を登っていく。
「ここ、よく見えるんだ」
高い場所に来たということは、もしかして…
萌が期待の目を向けると修兵は頷いた。
「花火。ここで萌と一緒に見たいと思って」
通りから離れているため、辺りに人はちらほらとしかいなかった。
見晴らし台のベンチに座り、街の喧騒から遠のいてひと息つく。涼しい夜風が心地良かった。
「さっきは…ごめんなさい。あたし、子供みたいな真似…」
袖を掴んだ事を思い出してにわかに反省する。
「全然。誘ったの俺だし、俺こそ萌をエスコート出来なくて悪かった」
そんな事はない。自分とのひとときを大切にしてくれてたのは解っていた。
我が儘なのはあたしだ。