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dearest moment

第23章 誤解


「話があるんだが…どうした?元気ないな」

 萌のしゅんとした様子に気付いて修兵のほうから尋ねてくる。

「もしかして…夏祭りのことか?」

 押し黙っていると彼は口調をやや強める。

「行くに決まってんだろ」
「誰とですか?」
「萌とだよ」

 思ってもみなかった返答に少し驚いて顔を上げた。

「なんで意外そうな顔してんだよ、俺誘ったはずだけど」

 勿論、覚えている。あの時の、自分と行きたいと言ってくれた彼の顔が浮かんでくる。
 じゃあ、あの話はいったい…?

「送別会で…隊で行くって聞いたので」
「それ、間違い。送別会は後日行うことになってる」

 きっぱりと否定してくれて萌は肩透かしをくった。
 つまり…あたしの思い違い?
 いや、彼女は確かに萌に告げるように話していた。もしかしてわざと嘘を?
 胸がチリチリと痛み出し下を向いて押さえていると、申し訳なさそうな声が降ってきた。

「混乱させて、悪かったな」
「いえ、違うんです。あたしが思い込みで…」
「いや、俺の隊員への通達が甘かった」

 檜佐木さんは…大人だな。あたしが騙されたようなものだけど…特定の隊士を責めることはせず、上司である自分の過失だと言い切る。
 また、好きな気持ちが溢れてくる。体温が上がる。涙が零れそうになる。

「…で、萌は俺と行ってくれるの?」

 改めて問われたが胸がいっぱいで喋れない。嬉しさのあまり何度も頷いてしまった。そんな萌の様子を見て修兵が優しく笑う。

「仕事、定時で終わらせるからな」

 頭をぽんと撫でられると、今までのもやもやが嘘のように晴れていった。

「ゆ、浴衣用意しなきゃ…」

 諦めかけていたため準備はしていない。急にあたふたし始め、右往左往する萌を見ながら修兵が尋ねてくる。

「萌はお祭り好きなのか?」
「好きです。夏の風物詩です!」
「じゃあ、おめかしして来て」

 つい力を込めてしまった返答に修兵は穏やかに笑って告げた。
 彼も楽しみにしているのが伝わってきて、萌は一層嬉しさがこみ上げてくるのを感じていた。



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