第21章 言葉はなくても
本日の業務が終了し、雨乾堂でひと通り浮竹の世話を済ませ退室して来たが、そろそろ手元の薬がきれる頃だ。貰いに行ってから帰ろうと思い立ち、萌は四番隊へ向かった。
頼んだ薬を待っていると、奥の廊下から修兵が姿を見せた。
「どうしたんですか?もしかしてケガ?」
「いや、俺は付き添いで来ただけ。うちの隊士がちょっと怪我してな」
心配でそのまま話し込んでいると、待合室の扉からひょっこりと荻堂が顔を出した。
「萌、持ってきたよ……あ、檜佐木副隊長、お疲れ様です」
荻堂は修兵に気付いてすぐに一礼し挨拶を交わした。
「あれ、ハル。まだ仕事してたんだ。今日は忙しかったの?」
「ああ、少しね」
「忙しい中ごめんね。ありがとう」
薬を受け取る萌に、荻堂が涼しげに笑いかける。
「もうあがるし。萌も終わったんなら僕とご飯行かない?」
「えっ」
萌の動揺を見て、荻堂はふっと笑って付け加えた。
「それとも…檜佐木副隊長と先約あったかな?」
微笑む荻堂を前に一瞬言葉に詰まる萌。
「してな…」
「まあな」
していないと否定しようとしたところで、近くにいた修兵がやって来て萌の肩を軽く引き寄せ、代わりに答えてしまった。
「それは失礼しました」
荻堂は驚くでもなく、むしろ予想していたかのようにすんなり謝った。
「じゃ、じゃあまたね」
修兵と共に四番隊をあとにする。人前で接近されて胸の鼓動が早いままだ。そんな萌に修兵がいつもと変わらない調子で尋ねてくる。
「もう今日はあがりか?」
「はい。檜佐木さんは?」
「俺はまだ仕事」
そっか…残念。あれ?じゃあさっきは…なんであんな事を?
困惑していると、修兵がぽんと萌の頭に手を乗せた。
「送っていくよ。飯はまた今度行こうぜ」