第20章 非番
こちらの様子を伺うように修兵がゆっくりと顔を近付ける。触れるか触れないかの距離がもどかしく感じられ、いっそ触れて欲しいと思ってしまう。
萌に抵抗がないことが分かると、その唇が優しく重なった。
懐かしささえこみ上げる感覚。こんなにも、もう一度欲しくなっていたなんて。
感触を楽しむように重ねられ舌先が唇をなぞる。誘うようなその仕草にたまらなくなって、吐息が熱を帯びていく。
「……おあずけのままだったから、止まんねえかも…」
一旦唇を離し、低い音色でそう宣言される。さすがにどきっとして抵抗しようと身構えるが、それが伝わったようでやや強引にくいと顎を掴まれた。
「んっ…」
上を向いたせいで開いた唇から舌が割って入ってくる。逃げ場もなくこちらの舌を絡め取られ、甘い感覚に眩暈を覚えた。
「…あ……ん…っ」
顎に触れていた手は頭の後ろに回り離れることを少しも許さない。より深く味わおうと角度を変えて重ね合わされる度に、呼吸が乱れ吐息が漏れた。苦しさと甘さが混じり合う、熱くて溶けてしまいそうな口づけだった。
唇が離れ解放されても、頭がぼうっとしてうまく働かない。
「…萌…あのさ」
口づけの余韻を纏わせ、修兵が熱っぽく呼び掛けてくる。
「俺、伝えたいことが…」
そこへ部屋の扉をノックする音が響き声が聞こえてきた。
「副隊長、いますよね?失礼しますよ、入ってもいいですか?」
「…駄目だ。今行くから少し待ってろ」
念入りに確認をする相手に、修兵はなるべく落ち着いた声で返す。そして萌に向き直り頭をぽんと撫でた。
「…萌、今日はありがとう」
礼を言ってすぐに彼は業務に戻って行った。
……さっき…何を言いかけたの?
聞けなかった言葉。いつか、聞かせてくれることを信じて萌は九番隊をあとにした。
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