第20章 非番
翌日の午後、萌はこっそりと九番隊に足を運んだ。執務室の前で霊圧を探ろうとしていると、突然後ろから呼び掛けられた。
「夢野四席、今日はどうしました?副隊長と何かお約束が?」
振り向くと、顔見知りの特攻隊隊士がきょとんとしている。
「えっ…いえ、差し入れを持ってきただけなんですけど」
「ああ、副隊長は今練兵場に…もうすぐ戻って来ますよ」
副隊長室内で待つよう促されたが、本人の留守に勝手に入るのは憚られた。
「じゃあ、一緒に来ますか?」
隊士に案内され共に練兵場へ赴く。なるべく目につかないように隅から覗いていたのに、こちらに気付いた隊士達から声が上がる。
「あっ、夢野四席!」
「どうしたんですか?」
「差し入れです。良かったら皆さんでどうぞ」
「嬉しいです。じゃあ、後で頂きます!」
しかし皆の輪の中に修兵は見当たらない。
「副隊長は?」
「さっきまでいましたけど…」
「戻るまで見学していったらどうですか?」
修兵の所在を確認した隊士がそう提案してくれる。するとその場に集まった隊士達から次々に話し掛けられた。
「夢野さんなら大歓迎です、着物じゃなかったら手合わせしたかったなぁ」
「お前狡いぞ、俺も手合わせお願いしたいっす」
「今度副隊長に内緒で飲み会しませんか?」
「こら、お前らあんまりしつこいと副隊長に睨まれるぞ」
急にがやがやと場が盛り上がり萌は焦ったが、任務時と違いはしゃぐ隊士達の姿や和気あいあいとした雰囲気になごみ、思わず笑みが零れた。
丁度そこへ、別の班の面倒を見ていた修兵が戻ってきて驚いてこちらを見る。
「萌…!」
「お邪魔しちゃってすみません。差し入れ持って来たのでどうぞ」
「ああ、わざわざ悪いな。ていうか、お前らこの騒ぎは何だ?」
修兵に見つかり、皆いそいそと持ち場へ戻っていく。
「副隊長、戻って来るの早いっスよお…」
「夢野さんちゃんと帰さないとダメですよ?」
「あーお前らうるせえ。しっかり訓練しろよ」
皆の邪魔にならないよう、修兵と副隊長室へ移動する。
ここに入るのは久しぶりだな…
最初の合同任務を思い出しひどく懐かしく感じた。