第19章 仲間
一日の業務の終わりに差し掛かっていた夕刻、仕事をなるべく後に回さないよう萌はまだ一人奮闘していた。
廊下を移動しながら頭の中で業務を整理していると、偶然恋次と出くわす。
「恋次…」
「…よお」
ここ最近は姿を見る機会がなかった。
例の一件で気掛かりではあったが、修兵から経緯を聞いていたため正直顔を合わせづらい気持ちはあった。もしかしたら向こうも同じように気まずく思い、避けられていたのかもしれない。
恋次に促され、庭に降りて外に出た。暮れかけた空に沈んでいく夕日の光に彼は目を細める。
修兵と揉めた後は彼なりに心を落ち着けたようで、話しぶりは穏やかだった。
「お前もルキアも、ずっと傍にいるもんだと思い込んでた」
だがやはりどことなく元気がない。変わりないように装っていても解ってしまう。ずっと一緒にいたから。
「傍にいるじゃない、今までだって…これからも」
「…解ってる。オレが馬鹿なのも、お前が優しいのも」
恋次がこんな風に反応するなんて思ってもみなかった。
相手が檜佐木さんだから…?
どうして、などと今更聞く気にはなれなかった。萌の知らない事情や、おそらくライバル心のようなものがあるのかもしれない。
「お前が…大事だって、気付かされた。今まで近過ぎてよく解らなかった」
少し辛そうな寂しそうな表情をして、彼は胸の内を吐露し続ける。
「お前だけじゃない、オレも…変わった。昔のままじゃいられなくなってたんだ」
「それでも、傍にいることは出来るよ」
苦しい時、困った時…助け合える距離にいる、それが仲間なのではないのか。例え行動を共にしなくても、何かあればすぐに駆けつける。今までだってずっとそうしてきたはずだ。
「あたし達はずっと仲間でしょ…違う?」
萌の問いに恋次は目を伏せると、足を踏み出し傍へやって来て片方の腕を萌の背に回し抱き寄せた。
「お前は自分に正直でいろよ」
静かな声でひと言告げられ、すぐに腕を解かれた。そのまま立ち去っていってしまう。
昔のままじゃいられなくなっていた。いつまでも変わらない関係なんて、幻想に過ぎないのか。