第1章 ガラスケースに飾られた君《仁王雅治》
みちるは道中、二人の体格差に悲鳴を上げながら、なんとか俺を保健室まで運ぶ任務を無事に終えた。
養護教諭は不在だったが、無用心なことに鍵は開いている。
可哀想だが、今頃養護教諭は腹を抱えながらトイレとお友達のはずだ。
「あれ、先生トイレかな?困ったなぁ、氷と…あとは湿布と痛み止めの薬も欲しいんだけど勝手には出せないし…」
みちるが薬棚を物色しているのを後目に、カチリと後ろ手に鍵を閉める。
その音がスイッチのように、俺に勇気を与えた。
「みちる…」
俺の様子を訝しげにみちるが振り替えると、想定していたよりも俺との距離が近かったからかみちるは一瞬目を見開いた。
「に…お…っ?」
開きかけた柔らかい唇とその視界を手のひらで塞いだ。
呆然としているみちるが今何をされているのかみちるの脳が正常に認識するまで何度も口内を蹂躙する。
「っ…ぁ、にぉ…や、め!」
漸く頭の理解が追いついたのか、みちるは抵抗するように身動ぎをした。
それでも、賽は投げられたのだ。
抵抗されても、もう後には引けない。
「みちる…」
混乱と恐怖の色を浮かべた薄茶色のみちるの瞳が次第にじわりと潤む。
「やめて、幸村じゃない…っあなたは、違う」
悲痛な声をあげるみちるの眼には、俺が物腰柔らかに微笑む幸村に見えていることだろう。
幸村が入院して以来、中々思うように会えず沈んでいるみちるを俺はずっと見ていた。
俺がみちるを渇望していたのと同様に、みちるの視線はいつも、そこにいるはずのない幸村を探していた。
だから、これはWin-Winの関係なのだ。
決して悪くない取引だ。
「どうしたんだい、みちる?泣いているの?」
すっと、さも当然のようにみちるの涙に濡れた柔らかな頬に触れる。
「触らないで!いるはずない、ここに幸村がいるはず、ないもん…っ」
必死に否定するみちるに、俺は構わず幸村を演じ続ける。
「寂しい思いをさせてすまない、おいでみちる」
子供にするように、手を広げてみちるの方から俺に歩み寄るように仕向ける。