第2章 乙女の心は純潔か?《五条悟R18》
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廊下に人の往来の気配を感じて、ぬくぬくとお布団の中で丸まっていたみちるは静かに目を覚ました。
任務で酷く疲れていた割に不思議と目覚めはすっきりとしている。
筋肉の強ばりを解す様に伸びをすると、ふと違和感を感じて寝癖頭のまま瞬きを繰り返す。
「………はぇ?」
間の抜けた声と共に、バッと布団をめくる。
(服、着てる)
(身体、ベタベタしてない)
(腰、痛くない)
「もしかして、全部夢……?」
部屋に戻って、シャワー浴びて、ふわふわのパジャマにふかふかお布団。
昨日頭の中で思い浮かべていた予定の通りになっている。
身体のあちこち、服の中まで確認しても情事の痕跡は無い。
疲れ過ぎてて幻覚見ちゃってた…?
それにしては肌をなぞる指先や唇の感触が随分と生々しかったような…と改めて色々思い返すと頬が熱を持つ。
「………顔、洗ってこよ…」
深く考えても確証を得られないなら、考える分だけ損か、と悪夢を振り払うかのようにみちるは朝の身支度を始めた。
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「あ、みちる先輩、おはざっす」
昼前に書き上げた報告書を提出しに職員室を訪れたら、後輩の虎杖悠仁とかち合った。
「虎杖おはー」
挨拶もそこそこに、職員室の中をちらりと覗く。
お目当ての日下部先生は離席中らしく、こりゃ出直しだな、と手にした書類を一瞥してため息をつく。
「あれ、みちる先輩、ソレどうしたんすか?」
「ソレ…?」
虎杖が怪訝そうな表情で耳の辺りを指差す。
「なんか、赤くなってません?」
「はぇ…?」
この一瞬で目ざといやつだな、なんて思いながら指先で耳に触れてみると、確かに耳朶がずきりと傷んだ。
何でこんな所?と思考を巡らせると、途端に走馬灯のように今朝の行為が脳裏で再生され、耳朶を五条に思い切り噛まれた事を鮮明に思い出した。
「え…………?あ、ァァああアッ!!?やっぱり!!夢じゃなかった!!!」
「え?トトロ?」と言う虎杖のボケなのか天然なのかわからない呟きは、その場をマッハで走り去るみちるにはもう届いてすらいなかった──。
五条悟抹殺まで壊れてなるものか。
そう心に固く誓うみちるの望みが叶う日は遠く果てしなく。