第1章 ガラスケースに飾られた君《仁王雅治》
弱々しく握られたみちるの拳がふるふると震える。
躊躇いを表すかのように開いては閉じ、開いては閉じる。
「みちる──。」
揺らいでるみちるの意識を揺さぶるようにとびきり優しく幸村の声で名前を呼んでやると、ぴくりと肩が揺れた。
ほら、一緒に渇きを癒そう。
「みちる、顔を上げて」
一歩、みちるがこちらに近付く。
俯いていて、身長差のせいでこちらから表情は伺えない。
だけど、その手が震えながら俺のジャージの裾を掴む。
「最低…っ」
それは果たして俺に向けられた言葉なのか、それとも自分自身を責める言葉なのか俺には判断がつかなかった。
しかし、顔を上げたみちるの目には確かに幸村が写っていた。
そのままみちるの身体を抱き寄せて、潤んだ瞳にキスを落とした。
瞳に、頬に、そして唇に。
みちるはもう、拒まない。
「──っん、ん…」
キスの余韻でとろんとした瞳。
上気した頬。
濡れた唇。
ああ、やっぱり君は最高に俺の渇きを癒やしてくれる。
だからこそ、誰にも渡したくない。
「好きだよ、みちる」
呪いの様に繰り返す。
君の目が醒めてしまわないように───。