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【文スト】君の笑顔が見たいから【R18】

第10章 止められなかった



手が無くなったと思えば、また手が当たっていた。


携帯を眺めてる者、本を読んでる者、寝ている者などなど。


誰もこの状況に気づいていない。気づいている人はいるだろうが、気づいていないふり。


敦に助けを求めたい。


でも、本当に痴漢じゃなかったら。


敦だけではなく、まわりの人にも迷惑をかけてしまう。


そう思うと何も言い出せない。


敦に気付かれないように、は耐える。が複雑な気持ちでいるのに対して、きっと相手は何食わぬ顔で触っているのだろう。


「次で降りよう」


敦はそうに耳打ちをした。一瞬は驚いたが、こくこくと頷いた。


大丈夫、耐えられる…そう思っているだが、既に限界だった。


脚がガクガクと震えて、身体も恐怖で震える。


無意識に敦のシャツの袖を左手で掴んだ。右手は声が出ないように口元を抑える。


触っている相手が、誰か分からない。


こんなに怖いことは無い。


苦しさで、上手く息が出来ない。


心臓を握り締められているような痛み。


伏せていた顔を上げて敦の顔を見る。


敦に気づかれないのは、良いような悪いような。


そう思っていると、電車が止まった。


『(やっと着いた……)』


そう思っていると、「意外と早く着いたね」と敦が言った。


にとっては長い時間だったが、こくりと頷いた。


ドアが開いてドア付近にいた何人かが電車から降りる。


窮屈だった電車内に、少し余裕が出来た。


は周囲を恐る恐る見回す。


一体誰が。


犯人を見つけて、どうのこうのするつもりはない。が、確かめたかった。



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