第10章 止められなかった
手が無くなったと思えば、また手が当たっていた。
携帯を眺めてる者、本を読んでる者、寝ている者などなど。
誰もこの状況に気づいていない。気づいている人はいるだろうが、気づいていないふり。
敦に助けを求めたい。
でも、本当に痴漢じゃなかったら。
敦だけではなく、まわりの人にも迷惑をかけてしまう。
そう思うと何も言い出せない。
敦に気付かれないように、は耐える。が複雑な気持ちでいるのに対して、きっと相手は何食わぬ顔で触っているのだろう。
「次で降りよう」
敦はそうに耳打ちをした。一瞬は驚いたが、こくこくと頷いた。
大丈夫、耐えられる…そう思っているだが、既に限界だった。
脚がガクガクと震えて、身体も恐怖で震える。
無意識に敦のシャツの袖を左手で掴んだ。右手は声が出ないように口元を抑える。
触っている相手が、誰か分からない。
こんなに怖いことは無い。
苦しさで、上手く息が出来ない。
心臓を握り締められているような痛み。
伏せていた顔を上げて敦の顔を見る。
敦に気づかれないのは、良いような悪いような。
そう思っていると、電車が止まった。
『(やっと着いた……)』
そう思っていると、「意外と早く着いたね」と敦が言った。
にとっては長い時間だったが、こくりと頷いた。
ドアが開いてドア付近にいた何人かが電車から降りる。
窮屈だった電車内に、少し余裕が出来た。
は周囲を恐る恐る見回す。
一体誰が。
犯人を見つけて、どうのこうのするつもりはない。が、確かめたかった。