第10章 止められなかった
「この人だ」と断言出来るほどでは無いが、自分の後ろにいた人物を見た。
ぞろぞろと電車から降りる人で見えなくなり、見たのは一瞬だけだった。
容姿は普通だった。20代くらいで、高身長で、スーツを着ていて…
本当にその人か、半信半疑になった。
はあ……と深い息を吐いた。
やっと息が出来る。
駅から離れても敦に言わず黙って、目的地へと歩いた。
「人多かったね、ちょっと驚いたよ」
何も答えずにずっと顔を伏せているに気づいた。
「どうしたの?ちゃん」
敦がに声をかけると、びくりと身体を震わせた。
『なんでも、ないです…』
「そう?」
敦は不思議そうに首を傾げた。
言うべきか、言わないでおくべきか。
敦は優しいから、嘘だとは思わないだろう。
だけど言うのはやめておこう、と秘密を抱えて敦の隣を歩く。