第10章 止められなかった
駅に向かうと、人が多かった。
朝に多いなら分かるけど、お昼も多いんだ…。
どうしてだろう、と不思議に思った。
電車の中を見ると、人がぎゅうぎゅう詰めだった。
人波にのまれないように、かわしながら進む。
電車に乗ると、窮屈で苦しかった。
「ちゃん、大丈夫?」
敦さんの心配した声が掛かった。
『だ、大丈夫、です…』
私と敦さんは椅子に座れずに、ドア付近に立ったまま。敦さんはドアでどうにか姿勢を保っていた。
人が多くてつり革が握れない。
私はドア付近の手すりをどうにか握って、身体を支える。
『…っ』
声にならない小さな悲鳴が出た。
少し下半身に違和感を感じたからだった。
──多分、人の荷物か手が当たったんだ。
だから、大丈夫。気にしないでおこう。
そう思ってそのまま、電車に揺られながら着くのを待った。
けど、少しもしないうちにまた下半身に何かが触れた。
──え…これって……
『(ちょっと、待って…もしかして、痴漢?)』
当たっているだけかと思っていたけど、やっぱり誰かが触っていた。
お尻を触られている。
『……ぅう…』
しだいにゆっくりと揉まれ始めた。
──どうしよう…
目を瞑って必死に耐える。
「ちゃん、こっち」
敦さんが、私の肩を寄せて密着させた。いつの間にか触っていた多分痴漢の手は無くなった。
『…あっ、』
近い。
それが率直な感想だった。
ドキドキする。
敦さんに心臓の音聞こえるかも。
そう思っているけど、ほとんど頭の中は真っ白だった。