第10章 止められなかった
電話を切った敦さんは少し難しい顔をした。
「この事件警察に任せることになったんだって。依頼者がさっき探偵社に連絡したそうだよ。国木田さんは戻ってきても、まだ調べてても良いって言ってるけど、どうする?」
「折角だし、ここでゆっくりしても良いって」
その言葉を聞いて、悩んだ。
『私は…』
ここにいたい。残りたい。
まだ敦さんと2人きりでいたい。
こんな機会、もう無いかもしれない。
だから探偵社に戻りたくない、って言いたいけど素直に言えない。
『敦さんは…?』
「うーん、僕はどっちでもいいよ。 」
じゃあ、ヨコハマに帰りたくない、って言ってもいいんだよね。嫌がれないよね。
でも、言葉が出てこない。
私が言葉を口に出したのは、敦さんが話してから1分くらいたった頃。
『ま、まだ、ここにいたい、です…。敦さんと、まだ…』
緊張と恥ずかしさで、言葉が途切れ途切れになった。
「うん、分かった。じゃあ調査はやめて観光しようか」
敦さんは私の答えに嫌な顔をせず、ニコッと微笑んで応えてくれた。