第10章 止められなかった
敦さんとの距離は身体だけじゃない。
心も離れている。
どんな関係だったら、触れていられるのかな。
敦さんにとって私が特別だったら良かったのかな、なんて考えるけど、すぐにやめた。
『(はあ……どうしよう)』
今の私が触れたって敦さんが困るだけ。
だから、触れるなんて無理だ。
どんな気持ちになったって我慢するしかない。
触れたい気持ちが溢れる前に蓋をする。好きだけど。
せめて何か声をかけたい。
でもなんて言えば良いか分からない。
ずっと顔を伏せていると、気づいた。履いているスカートの赤が少し滲んでる。
涙が零れたのかな、とは思わなかった。
敦さんに迷惑かけないように、ずっと我慢したから。
「雨……降ってきたね」
敦さんがそう言って、顔を上げた。
確かにポツポツと雫が落ちてくる。
私の今の気持ちも、空と同じみたいで雨が降っている。
「すぐ雨が止むといいけど」