第10章 止められなかった
次の日。
キスマークはまだ消えていない。昨日と同じで見えないようにスカーフで隠して、探偵社に出勤した。
──敦さん……
自分の気持ちなのに、どうしたいのか分からなくなる。
鏡花ちゃんが羨ましい。
昨日聞いた事を引きずっている。
『おはようございます』
敦さんとの調査2日目は、昨日より緊張は和らいだ。
「おはよう、今日もよろしくね」
そう言って敦さんは微笑んだ。それに私もつられて微笑む。
一緒にいられるのは嬉しいけど、なんだか気まづくて早くこの依頼の仕事を終わらせたい。
そう思いながら、駅に向かう。
「ちゃん?」
敦さんの声でハッとした。
私はいつの間にか歩くのやめていて、敦さんとの距離が離れていた。
「大丈夫?ぼーっとしてた」
『っあ、あぁ、大丈夫です……』
そう言って敦さんの方へと駆け寄った。
敦さんに大丈夫と言うけど、本当は少し頭が痛い。
「本当?顔色が悪いよ」
心配そうに言う敦さんに、迷惑をかけたくないからまた「大丈夫」と言う。
「休憩したくなったら遠慮なく言ってね」
なんでここまで声をかけてくれるんだろう。
敦さんはやっぱり優しい。
私、彼のこんな所が…
『……好き』
不意に言葉が口から出てしまった。
「えっ…?」
『……っ!』
しまった。
敦さんに聞こえたかも。私は必死に誤魔化す。
『あ、電車!電車見るの、好き、かもって…』
「ああ……」
そうなんだ、と敦さんは微笑みながら言った。