第10章 止められなかった
食材を二人分買っていた事に、寮に着いてから気づいた。
きっと食事はすませて帰るだろう、と思い自分の分を作った。
食べ終わる頃にはもう8時を過ぎていて、急いで食器を片付ける。
任せっきりだったな、そう思いながら洗う。
ドアが開く音がして、帰ってきたんだと分かった。
「ただいま」
気づいてないふりで、いつも通りにしようと決めた。
『…おかえり』
振り向いて、答える。
スーツのジャケットを脱いでハンガーに掛けてる。
前を向いて、止まっていた手を動かしてシンクを洗う。
『ご飯は?』
「済ませたよ」
私の予想通りに彼はご飯は済ませていた。
やっぱりあの女の人と何かあったんだ。
「明日も遅くなりそうだから──」
『遅く帰ってくるのが仕事なの?』
彼の言葉を遮って嫌味っぽく言った。
彼は気づいただろうか。
「なに、怒っているのかい?」
そう言って来た。
『……全然』
「はは、なんだか新婚の夫婦喧嘩してるみたいで嬉しいよ」
返ってきた返事は斜め上の予想外な意味わからないものだった。
『なに、言ってるの…』
「いやぁ、ちゃんは可愛いなと思って」
この人といると気が狂う。
これで何度目だろう。