第10章 止められなかった
「仕事の疲れを癒して欲しいな」
またそんな巫山戯たことを言う。
『女の人....彼女がいるならその人にしてもらえばい──』
手首を掴まれて、言葉を遮られた。
面と向かって言われた。
「なんでそんなこと言うんだい?」
言葉に詰まる。
女の人と一緒にいる所を見た、なんてそんな事は言えない。
「一応妻もいる身なのに、浮気なんかする訳ないじゃないか」
"一応"って言った事に少し引っかかった。
『それなら、私に手を出さないでよ』
「それは無理なお願いだなあ。それより、誤解を解かないとね」
私の髪を撫でながら言う。
「その女の人って言うのは、塾の生徒だよ。彼女を家に送っただけでもちろん、何もしてない。関係もない」
言い終わったかと思うと、私の首筋にうずめた。
痛みに気づいて、『痛い』と言うと離れてくれた。
「白い肌に映えて綺麗だよ」
そう言われて、キスマークを付けられたことに気付いた。
「嫉妬してくれたんだよね、嬉しいよ」
『ち、ちがうっ』
なんでこの人は違う方向へと解釈してしまうんだろう。
「でも酷いよ。愛してるのは君一人なのに」