第10章 止められなかった
仕事を終わらせて寮に帰る。
ドアノブを回すが、開かなくて鍵がかかってることに気づいた。
まだ仕事かな、と思いながら靴を脱いで部屋に上がる。
携帯でメールが来ていないか確認する。
思ってた通りに連絡があった。
件名は【遅くなる】で、20分前に来ていた。
まあいいや、と思いながら手を洗ってご飯の準備をする。
冷蔵庫を開けると、何も材料がなかった。
仕方ないと思い、近くのお店で何か買おうと玄関に向かって靴を履く。
******
夜のヨコハマは危険だ、とか言われているけど案外そうじゃないと感じる。
街の灯りが綺麗で心が落ち着くことができて好き。
歩いていると、目の前の数メートル先に知っている人の姿があった。
───太宰さんだ
近づいてから分かった。
その人は私に気づいた。
『こ、こんばんわっ....』
声をかけるのは緊張した。
このまま通り過ぎるのは良くないと思って挨拶だけした。
すると太宰さんは微笑んだ。
「やあ、ちゃん。一人かい?」
太宰さんは私を逃がしてくれなかった。
『....はい』
頷きながら答える。
「ちょうど良かった、一緒に心中をしないかい?今夜の月は綺麗だ。こんな夜に死ねたら素敵だと思わないかい?」
突然の誘いに困惑する。
『え、えんりょします....』
それは残念だ、太宰さんはそう言いながらため息をついた。
それから何か言ったけど私は太宰さんの言葉は耳に入ってこなかった。
ある人が見えて、それに釘付けになった。