第2章 2
川島は薬箱をテーブルの上に乗せると、お嬢様の隣に腰かけた。ガラス細工を扱うように、両手で静かに手を持ち上げる。
もう一度、傷口を確かめてみると、さっきよりは血の勢いが収まっていた。
だが、まだ傷から血の玉がにじみ出してくる。
傷ついた肌に、胸を万力で締めつけられたような痛みを覚えながら、華奢な指をそっと口に含んだ。
「……っ」
「少し我慢してください、消毒です」
傷口がしみるのか、少し眉根にシワを寄せたお嬢様に言いながら、にじみ出てくる血を舌で舐めた。
少し鉄の味がしたが、やはり甘い……と川島は思った。
お嬢様のすべてが甘く感じられるのは、存在自体が愛しすぎるせいだろう。
オレのお嬢様から出るものは、みんなオレのものだ。
汗も体液も血液すらも。
「ん……お可哀想に。お嬢様……っ」
切れている箇所を舌先でやさしく撫で、キスをするように吸う。甘く錆びた血の味に、頭の中が陶酔状態に陥りそうになる。
目を閉じ、執拗に舌を這わせ血をすすり続ける川島に、お嬢様が苦笑した。
「川島、指ふやけちゃうよ」
はっとしたように目を開けて川島はやっと唇を離した。
「すみません、つい……」
もう一度、清潔なガーゼで指を消毒し、軟膏を塗ってから指用の包帯を巻いた。
切っただけなのに大げさすぎる、と言われたが取り合わなかった。
それに、はじめて愛してやまない女性の血液を味わったことで頭が一杯になっていた。
手当てがすむと、お嬢様がおずおずと口を開いた。
「……怒ってる?勝手なことしたから」
親の顔色をうかがう女の子のような目を見つめながら、川島は自分の額をお嬢様の額にコツンとぶつけた。
「怒っていませんよ」
額をくっつけたままやさしい声で言うと、お嬢様が「本当?」とタンポポのように微笑んだ。
ああ……なんて可愛いんだろう、オレのお嬢様は。
何度も思っていることなのに、まだ思い足りない。
愛らしくて、可愛くて、愛おしすぎて、食べてしまいたいほどすきだ。
もう料理のことは忘れてこのまま押し倒したい。
オレがお嬢様の片手となり、一時も離れず一日中お傍でお世話したい。断られるのはわかっていても、そうしたい。
川島は胸に溢れる想いを抑えこみながら尋ねた。