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ちょっと過保護すぎるんだけど?

第2章 2


ここまででお嬢様が手伝ったことといえば、食材を出して卵を溶き、下味をつけることだけだ。

さすがに飽きてリビングでくつろぐのだろう、と思い川島はそのままキッチンに残った。

リビングはダイニングキッチンと、部屋がひとつづきになっている。


揚げものや炒め物は音に集中する。調理中にフライパンから聞こえる食材の音で火加減が決まるからだ。

食材や調理器具との対話。
五感を使う料理は川島にとってひとつの娯楽だった。

お嬢様はというと、料理はできるが手間をかけるほどすきではないらしい。

まあ、オレが傍にいる限り、どのみち料理は自分がやるのだから何も問題はないのだが。

川島は、熱した油の海でパチパチと小気味よく弾ける衣の音を聞きながら、揚げ終えたらお嬢様の様子を見に行こうと思った。


「あっ」

そこへキッチンの向こうから、お嬢様の悲鳴が微かに聞こえた。

あわてて火を止める。急いでキッチンを出た。

カウンターの向こうのダイニングテーブルで、いつのまに持っていったのか、スライサーを片手にお嬢様が自分の指を見ていた。

――!!

イヤな予感がして、とっさに手を掴んだ。

「川島……」

人差し指から鮮血が滴りおちている。

傷口から赤い涙が流れ出し、白い指に深紅の糸が巻きついているように見えた。

それが視界に入った瞬間、川島は血の気が引きフッと倒れそうになった。

まるで自分の体内から血液がすべて流れ出してしまったような錯覚に、激しい動悸がして息が苦しくなる。

指先の傷は、キレイにスパッと切れていた。

それでもなんとか爪が守ってくれたようで、血さえ止まれば残る傷ではないと判断した。

キレイに切れた傷ほど治りは早いのだ。

桜色の爪に白い亀裂が入っているのを見て悲しくなったが、お嬢様の指先を守ってくれたことに感謝した。

これで爪がなかったら……と考えただけでまた倒れそうになる。

お嬢様をイスに座らせ、指先をティッシュでくるむ。
断りを入れてから薬箱を取りに向かった。

痛みによるショックなのか、あれだけ反対されたのに勝手をした自責の念なのか、お嬢様はしょんぼりとうつむいていた。


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