第3章 おまけ
ちらりと白い歯が覗く。
口の中に運ばれるのを待っている表情がキレイで、でも可愛くて、お嬢様は少しだけそれをながめてからスプーンを動かした。
川島が目を閉じたまま咀嚼する。
モグモグしている顔が、また可愛かった。
口の中が空になったのか、目をゆっくりと開ける。
その目が涙で潤んでいた。
泣いてる!?
お嬢様が目を丸くしていると、川島が噛みしめるように言った。
「……っ、美味しいです。甘さと苦みが絶妙のバランスで調和しています。まるで、お嬢様のようです」
最後の言葉が気になったけれど、とりあえず合格をもらえたようでお嬢様はホッとした。
なぜか泣きそうになっている川島の眼鏡を、静かに外してローテーブルに置く。
長めの前髪を流し、目の端にたまった水を指ですくった。
「泣いてるの?」
「は……、なにを仰っているんだか。意味がわかりません」
涙をこらえている様子をからかいながら、お嬢様は何度もコーヒーゼリーを川島の口へ運んだ。
ゼリーを作ったくらいで、泣くほど感激するなんて。
川島は決して涙もろい方ではなかった。
世界中が涙した――なんて謳い文句の映画を観ても、感傷に浸って泣いたりしない。
それなのに、お嬢様に関することでは、すぐに涙腺がゆるんでしまうようだった。
お嬢様は想像してみた。
もし川島が病気をして自分が介抱することになったら。
もちろん喜んでするけれど、そうなったときは……。
完治するまで感激で泣き通しかもしれない。
それも可愛くて見てみたい気がするけど、やはり川島にはしゃんとした姿がよく似合う。
考えにふけっていると、いつのまにか川島の顔が至近距離にあった。
後頭部を引き寄せられ、キスされる。
舌先を触れ合わせると甘くほろ苦い味がした。
さっきキッチンで味見したよりも、ずっとやさしい味。
お嬢様はゼリーを食べてもらえた満足感と、感謝の意を伝えるような川島の柔らかい舌の動きに、唇が離れるまでのあいだ浸った。
冷やして固めるだけなら川島の許容範囲。
それなら次はなにを作ろう、と模索しながら――。