第3章 おまけ
このあいだ料理を手伝ったとき、川島がほとんど何もさせてくれなかった。
刃物を持たせてもらえず、水場に立たせてももらえず、火も使わせてくれなかった。
危ない、の一点張りで。
スライサーで切ってしまった指の傷は、もうキレイに塞がっていた。
自分の手に対する川島の執着はなんだろう、とお嬢様は思った。
確かにピアノを弾いてきたせいか、指が長いと周りに褒められることはあるけれど。
川島の執着には、それだけが理由ではないなにかを感じる。刃物を持たせないのも、とにかく手を守りたいからだと言う。
お嬢様はそんな過保護な愛が嬉しくもあり、同時に物足りなさも感じていた。
川島になにかを作ってあげることができないからだ。
今朝、コーヒーを飲んでいるとき、いいことを思いついた。川島のためにコーヒーゼリーを作ろう。
ゼリーなら温めて固めるだけだから、作っても叱られないのではないか。
ひらめいたらすぐ行動に移したくなる性格のお嬢様は、さっそく準備に取りかかった。
今ちょうど川島が書斎にこもっている。
そのあいだに作ってしまおうと考えた。
鍋に水、板状の寒天、蜂蜜を入れ火にかける。
煮たってきたら弱火にして1分混ぜる。
あらかじめ淹れておいたコーヒーを混ぜたら完成。
あとはガラスの器に入れて冷やし固めるだけだ。
1時間ほどで簡単に固まったコーヒーゼリーを冷蔵庫から取りだす。
さっそく味見してみると、ほろ苦い味とコーヒーの香りが口の中に広がった。
砂糖の代わりに蜂蜜を入れたので、ほんのりやさしい甘さに仕上がっている。
川島のおどろいた顔を想像して、お嬢様は思わずふふっと声に出して笑った。
ゼリーの上に少量のミルクをたらす。
さっそく書斎に持って行こうとして立ち止まった。