第3章 おまけ
自分もそうだけれど、川島は甘いものをあまり食べない。だからゼリーも蜂蜜の分量を少し減らして作った。
とはいえ、このままだとさすがにコーヒーの苦みが強すぎるかもしれない。
川島は、いつもヒマさえあれば本を読んだり、考え事をしているから頭がフル回転だろう。
もう少し糖分を摂ってもいいのではないかと思う。
お嬢様は冷凍庫を開けた。
客人用のバニラアイスを、スプーンでアーモンド型にしてゼリーの上にのせる。
最後にミントの葉を飾った。
これでかなりスイーツらしくなった。
川島のイメージとスイーツがあまりにもかけ離れているので、食べる姿が楽しみだった。
「川島、入るね」
トレーを持って書斎へ入ると、眼鏡をかけた川島が書棚の前で分厚い本をめくっていた。
「コーヒーゼリー作ってみたの。よかったら食べない?あ、お腹空いてなかったら下げるけど」
ソファーに座り、トレーごとローテーブルの上に置いた。
「これを、お嬢様が?」
案の上おどろいた顔でゼリーを見つめながら、川島が口元に手をやり近づいてくる。
口元に手をやるのはいつものクセだ。
「お嬢様が……オレのために……」
また、わたしがオレになっている。なにやらひとりで感動している川島に、お嬢様は言った。
「早く食べないとアイス溶けちゃうよ」
はっと顔をあげると、川島はあわてたようにお嬢様の手をとった。
「お嬢様!おけがはされていませんね?火傷などは……よく見せてください」
早口で言い、真剣な表情で手を確認する川島に苦笑しながら、この分じゃやはり凝ったものは作れそうにないなと思った。
自分の手に対する川島の執着は一体なんなのか、お嬢様は訊いてみたくなった。
素直に答えてくれるだろうか。
「ケガなんかしてないから。それより早く食べてみてよ」
ゼリーをスプーンですくい、川島の口元へ運ぶ。
「はい。アーンして?」
「そんな……お嬢様。食べさせていただくなんて」
目を2、3度しばたいて恥ずかしそうな表情を浮かべた川島が、それでも目を閉じ口を開けた。