第4章 はしやすめ
「先輩、それやりますよ!」
「その書類はもう出しましたよ。」
「先輩、書類に不備が...」
「宇航って最近入ってきた子!凄く良い子じゃない!?」
「うんうん。イケメンだし~」
「仕事凄くできるよね、最近凄く楽になった!」
仕事が出来すぎ宇航の噂は瞬く間に広がった。特にその目立つ容姿からか侍女達が騒いでるのを何度も目にした。確かに関わってみたら凄い出来る子だったし、気が利く。私が仕事が多い...と死にそうになっていれば笑顔でやりますよ!と言われた。流石に申し訳ないし、秘蔵の文書とかもあったから断ったけどね。
「、」
「はい。」
最近、紅炎様とお茶をする機会が増えた。あれ以来紅炎様は私を惚れさせようと少しの時間も過ごそうとなさる。正直早く私の事見限って欲しい...。
「最近、新しく入った官吏が噂されている様だが、」
「紅炎様のお耳にも入っていましたか...。そうなんですよ、最近凄く優秀な人材が入ったのですよ。それはもうとても良い子で...」
紅炎様に宇航の事を話してみると、非の打ち所が無いことに気付いた。それは良いことではあるが、同時に何か裏があるのではないかということにもなる。
「...?どうした?」
「あっ、いいえ、ただ、その、宇航が敵国のスパイだったらどうしようと...」
「その時はその時だろう。」
「ま、まぁそうですよね...。」
紅炎様がそろそろ執務があるということなので、お茶請けやお茶が乗ったお盆を持って厨房に向かう。その間考えることは先程のスパイ疑惑のこと。
折角良い子が入ったのに、スパイなんて悲しいじゃないか。宇航がスパイではという気持ちを否定するように首をぶんぶんと振れば、目と鼻の先にあった厨房が騒がしいことに気付いた。
「どうしたの?」
その場にいた板前に尋ねると、少し顔が青いのに気づいた。ただ事ではないようだ。
「それが...今日の夕餉にと作ったものにですね、長瓜の器がありまして...」
長瓜の器、と言えば最近手に入れた陶器だったか...。蓋とお皿に別れているそれは蓋がカッチリハマる位置は1つしかなく、それは板前と皇子、その従者しか知らないものだ。