第2章 懐かしい香り
ポソリと呟いたが、周りに人は居らず、その呟きは空気に溶け込んでいった。
なんとはなしにそれが虚しく思えて、もうやけくそで私は部屋に入った。
そこには変わらない私の部屋。本当に掃除されてた...。全然変わってない。怖いくらい変わってなかった。
本来、官吏には部屋は支給されない。官吏達は寮のような所に入れられ、そこで皆でぎゅうぎゅうに布団を敷き詰めて寝泊まりするのが主だ。しかし私や他の皇子、皇女の側近や従者には部屋が与えられる。
例に漏れず私もこの部屋を宛てがわれた。皇子付きとは言え、一従者には勿体ない位に広いこの部屋は隅から隅まで綺麗で、埃1つ散っていなかった。
正直、紅玉ちゃんの言うことに半信半疑だったのもあって、私は部屋の前で立ち尽くしてしまった。その姿は正に呆然という言葉がお似合いだろう。
「ああ!~!」
「!」
そしてその呆然としていた時に大きい声で呼ばれるものだから、我ながら珍しく大きく驚いてしまった。ギギギと壊れかけのブリキ人形の様に声のした方向に振り向けばそこには紅覇くんがいた。
紅覇くんも本来私の立場だとこんなくん付けなんて許されないが、何故かそれとタメ口を強要された。他にも私に敬語を使うなと言う皇子や皇女は多い。恐れ多いのでやりたくないのが本音だ。
「~久しぶりぃ~」
「うん、久しぶり、紅覇くん。」
べたぁと私に絡みつくようにくっつく紅覇くん。暑い。
「今まで何処行ってたのぉ?炎にぃがもうそれはその名の如く炎と化してずっと探し回ってたよぉ?」
「.....あー、うん。」
その紅覇くんの例えが想像出来てしまってぞわっと来た。やっぱり会うのが怖くなってきたかも...。寒気を紛らわすために腕を摩りつつ紅覇くんにこれまでの経緯を掻い摘んで説明した。
「ええ~紅玉の従者になるのぉ~?」
「うん、期限付きでね。」
「僕の従者になって欲しかったのに~」
「あはは、そういうのありがたいけど、冗談はよして?」
本当なのにぃ~とむくれる紅覇くんを見て見ぬふりして話を変える。
「そういえば純々達は?」
「あ~あいつらはね~従者会議、だったかなぁ~。」
「ああ。」