第2章 懐かしい香り
にしても国王が誰か分からないとは、どうしたものかねぇ...。紅玉ちゃんは結婚したくないけど、それ以上に国の為の事を考えているから、国王がいないのは願ったり叶ったりだけどそれを「はい、そうですか。」で帰れる訳では無い。
「どなたでも、構わなくってよ。私が受けた本国からの命令は「『バルバッド国王』と婚姻し、条約を結ぶ」ことです。たとえ国王がどなたになろうとも変わりはありません。なるべく早く、新しい国王様をお決めになってくださいね。」
まぁ、うん。そうだよね。紅玉ちゃんの冷静な対処に度肝を抜かれた。凄いな。私と歳が近いのにこんなにしっかりできるだなんて。
「紅玉ちゃん、頑張れ!」
バルバッドの人達がなんかごたごたしてる間に、紅玉ちゃんにこそっと激励を送る。「え、ええ」と返した紅玉ちゃんは周りには分かりにくいが緊張していることが伺えた。私は今は何も出来ないから見守るに徹するしかない。何かフォローの1つや2つ、できると良いんだけど...。と、気づくとみんな、アリババの方を見ていた。
「あなたが...新しい国王様になるの...?」
「.........俺は.........
国王にはなりません。」
「!?」
国王にならない...!?どうして...!?彼しかなれる人はいない。その彼がそれを放棄すると言うなら、誰が国王になるの...?
「サブマド兄さん、俺にだって王になる資格なんかないよ。俺は、かつて先王を死に追いやるきっかけを招き、その上、国を捨てて逃げた無責任な人間だ。国を治めていいはずがない。」
アリババ、それは考えすぎだ!
そう言ってやりたい。君が変えようとしたんだ。君には王の資格があるよ。でも、それが言えるのはアリババの話を聞いた私達だけで、それが言えないのが今の私の立場だ。...口惜しい...。酷く口惜しい。
「...では、どうするのかしら?明日の調印式までにはお決めになってね?」
「その調印式のことで、お話があります。」
「.....あなたは、何.......?」
「第三王子、アリババ・サルージャ。」
そう名乗った彼は、以前に見た自信の無い、へなへなした彼と違った。
本当に彼は分からないな。シンドバッドさんとは違う掴めなさを感じるよ。