第9章 きす。
「夏美さん、こっち」
「え?」
梟谷の部屋の少し手前、ちょうど死角になっている場所に引き込まれた。
「少し充電するだけです。
目、瞑って」
肘が顔の両側に置かれ、逃げ場はない。
タメ口の赤葦にキュンとしてゆっくり目を閉じた。
心臓の音が煩い。
「……ん」
軽く重なった唇。
片手で後頭部と腰を支えられ、より距離が近くなる。
「ん……っ、ん」
「声、抑えて」
少し離れた時に紡がれた言葉は掠れていて。
「っ、ん」
優しく優しく触れられて、心が蕩けそう。
「はぁ……も、っと……んぅ……」
赤葦の首に手を回し、続きを強請る。
先程中途半端にされた熱が蘇って身体が火照る。
グッと更に近づけられた腰。
赤葦の……当たってる。
「けぇ、じ……」
頭がボーッとする。
今なら名前も呼べる気がした。
「っ、ったく、あんたって人は……」
赤葦が息を飲んだ。
「け、じ……もっと、きす」
「どれだけ俺を煽れば気が済むんだ。
俺、結構ギリギリなんですけど」
「しっ、てる」
首に回していた手を片方解き、下腹部に触れた。
「っ、ちょ!」
「だめ?」
赤葦の喉が鳴る。
「っやぁ、ぁん……」
「「!!」」
微かに聞こえた声。
隣の部屋?
「弁えろっつったのに、あの人は……」
赤葦がイライラした様子で息を吐き出した。
空き部屋とはいえ、梟谷の部屋の近く。
なんという強メンタル。
まぁ、ここで強請ってた私もなんだけど……。