第9章 きす。
「夏美さん、そろそろ機嫌直してくださいよ。
不可抗力なんですから」
「……」
赤葦が顔を覗き込んで来るけど、知らない。
ナナちゃん達は手を繋いで先を歩いてるし。
「……俺、先に戻りますね。
夏美さん俺と話したくないみたいなんで。
じゃあお気をつけて」
「っ、ま、待って!」
伸ばした手は宙を切り。
赤葦がどんどん遠ざかって行く。
「ごめ、怒ってないから、ごめんなさい」
走ってその背に追いつき、腕を引いた。
「知ってます。少し意地悪しました」
「赤葦、良かった……」
「それ、いつまでですか?」
「え?何が?」
「……灰羽のことはなんて呼んでます?」
「リエーフくん」
「木兎さんは?」
「光太郎」
「じゃあ、俺は?」
「赤葦……だけど」
「俺も夏美さんに名前で呼んで欲しい」
「え!」
「嫌なんですか?」
「や、じゃないけど、今更なんか恥ずかしい……」
「木兎さんは最近呼び方変えたのに?
俺は駄目なんですか?」
「だ、駄目じゃないけど」
「けど?」
「もう少しだけ、待って欲しい」
「……分かりました。
合宿終わったら呼んでくださいね」
「うん」
「そんなに落ち込まないでください。
半年も我慢出来たことがあるんです、数日ぐらい余裕ですよ」
優しく頭を撫でてくれる。
「ありがと」